Butterfly only knows.

札幌のデザインマネジメント会社社長のブログです。

川端康成『古都』より

今後の事業展開

 会社の今後の事業展開についていろいろと考えてきましたが、やっと具体的な取り組みとして表に出せるようになりました。

 まず、かねてからの懸案だった東京(首都圏)への展開ですが、いよいよこの春から東京オフィスをスタートさせることになりました。人的リソースやかかるコストの面で躊躇していたこともありますし、特にこれといったツテがない状態で始めて大丈夫なのか、という懸念があったわけですが、そもそも起業した時と同じ事をもう一回違う場所でやるだけの話なので、えいやっとやってしまうことにしました。

 当初は大変スモールスタート(面積的な意味で)で、人員も一人からですが、まずは1年かけて軌道にのせるよう考えています。自社のことではありますが、とても今後が楽しみです。なるべくたくさんの「外貨」を稼いでちょっとでも北海道の景気向上に寄与できれば、と思います。


 次に、オリジナルのサービスとして学校向けに特化したCMSをリリースする予定でいます。かたちとしてはホスティング込みのASP(今はSaaSというべきか)としてのリリースになるかと思いますが、開発がまだ途中なこともあり、詳細はもう少し詰める必要があります。

  といったようなことが、弊社の年度末の状況です。4年目の春に大きく動き出すこととなりました。


♪ Love's A Cradle / Cathy Dennis

デザインは付加価値か

 公的な機関が主催する製造業向けのデザインに関するセミナーなり勉強会なりで、よく「デザインによって付加価値をつける」という表現が使われる。助成金や補助金の資金使途のなかにも「デザインにより付加価値を付与するために〜」などといわれることもあるし、ちょっと経営に関して勉強している経営者も「デザインの付加価値で商品力を高めて」などと発言することもよく聞く。

 本来「生産」ということ自体を原材料の価値に対して価値を付加する(付加価値をつける)活動だとする意味合いがあるかと思いますが、ここでの文脈では違うように思われます(それだとその製造業の全ての活動を付加価値を付加する活動と表現しなければ矛盾する)。

 この場合の「付加価値」は見栄えによって増加すると思われる売上げ額、程度の意味で、「デザイン」の意味も多くの場合、見栄えをよくしてより売れるようにしよう、という程度の意味ではないでしょうか。

 個人的のこの手の考え方に非常に疑問があり、そういった発言を聞くたび発言者にその真意を(付加価値って何ですか?とか、付加する前の価値はどんなもんですか?とか)脊髄反射的に聞いてしまいます。

 その製品なりサービスが最初からもっている価値に対して、デザインという行程を経ることで向上する価値を「付加価値」と呼んでいるのかと思いますが、それではデザインという行程がないプロダクトはそもそも価値を有しているのでしょうか。

 例えば自動車を例に考えてみると、自動車の価値とは本来、

  • 人や荷物が運べること
  • 歩いてはいけない遠いところへ素早く移動できること

という基本的なことをベースとしており(一般的に市販されている自動車でこれを満たしていない自動車はないと思う)、これに加える形で、

  • より早く(単位:ps、kg/m、CD値等々)
  • より多く(3列8人のりとか)
  • よりラグジュアリィに
  • よりかっこよく

とかいう要素が価値的差別要因の例となります。
この文脈だとデザインによる付加価値という発想は破綻がないように思われますが、ではデザインという行程を経ないで造られた自動車を思い浮かべることができるでしょうか。現在市販されている自動車からデザインという要素を排除して成り立つ自動車はあるでしょうか(どうしょうもないひどいデザインの車はありますが)。

 少なくとも現在のマーケットでは、

  • 人や荷物が運べる
  • 歩いてはいけない遠いところへ素早く移動できる

だけの自動車は求められていない以上、デザインという要素を排除した自動車製造は考えられません。つまり自動車の価値にデザインという要素は織り込み済みであり、不可分であると思います。自動車が本来もっている価値とデザインによって付加した価値は分けられない(同一である)と思うのです。

 そしてこれは自動車に限らず、これだけ成熟した日本のマーケットでは全てにおいて同じだと思っています。ユーザーを必要とする全ての製品・サービス・企業・事業・概念等々、それらの価値にデザインは不可分な要素として含まれていて、それは付加価値ではなく、それ自体の価値そのものだと思います。


 といった観点から、製造業の経営者の方には可能な限り早い段階(企画段階)からデザイナーを参画させて、一緒に「価値」を造っていく必要がありますよ、と説いています。中身を造った後で、外見をぺたっと貼り付けたり、かぱっとかぶせても、間違っても付加価値は生まれない、と思うのですがいかがでしょうか。

♪ Come / Prince

WEBデザイナーに求めるスキル

一般的な話ではなく、少なくとも弊社でWEBデザイナーとして働くには、という条件での求められるスキルについて。ただし全部に該当するからといって即採用するわけではありません。そもそも募集しておりませんので(2008年1月現在)。

人と話ができること

ここでいう人とはもちろんクライアントのことで、基本的に客直案件しかやらない方針の弊社では、デザイナー自らが自分の言葉でプランを説明すること、あるいは必要な情報を聞き出してくることが求められます。デザインに関わる部分の会話能力も必要ですが、その前にシャカイジン的なスキルが当然のごとく求められます。そういう文脈で、スマートなスーツの着こなしを身につけることもデザイナーに科せられた命題です。

アンテナ

斬新なデザイン(ルック&フィール)のサイトを見つけておくこと。それから日々生まれる新しいウェブサービスを何でも自分で試してみること。ある種のデザイナーは既得技術でいったん仕事ができてしまうと、そこからなかなか踏み出さない傾向があります。新しいサービスに触れることで少しでも自分の感覚をアップデートし、新しいスキルを身につけることの抵抗感をなくしておいて欲しいと思います。

プログラム/サーバサイドの知識

かなり以前からいわれていたことですが、開発者とデザイナーの歩み寄りというのが開発がからむ案件でのテーマになることが多いように思います。特にユーザビリティの観点からインターフェイスを考えると、両方の要素が複雑にからむ事案が多く、ロジックはプログラマーが、ビューはデザイナーが、という切り分けでは良質なコンテンツが生み出しにくくあるように思います。
現場に即して考えると、開発者にデザインについてのスキルを身につけてもらうよりは、デザイナーにシステムサイドの知識を与える方が現実的かと思いますので、この方向での学習をWEBデザイナーに求めます。
最低限WEBサーバに関しての知識と、WEB開発に使われるスクリプト言語の基本的な知識、MVCの概念の理解、スキルレベルでは最低でもイベントドリブンでJavaScriptをコールするやり方、PHPRubyの変数から値の取り出し、データベースのフィールドを見て適切なフォームが構築できること、ぐらいが必要です。まだまだありますが。

スピード

スピード、スピード、スピード。手作業のスピードだけではなく、発想のスピード、情報収集のスピード、決断のスピード、等々。作業に関しては複数人で分担という方法もとれますが、それ以外は個人のスキルによるところが大きいと思います。多くの案件は十分な期日が(少なくともデザイナーが十分と思う期日が)用意されません。スムーズに取りかかれるよう、情報と頭の整理はいつでも万全にしておく必要があると思います。


その他にも細かいことはありますが(喫煙者不可とか!)、当たり前のこととして、高いクリエイティビティは必須です。どんなにコミュニケーション能力が高く、新しいことに敏感で、プログラムもばっちり、頭の回転も速い、という人でもデザイン能力が低ければそもそもデザイナーとしてやっていけません。そういうのをひとことで、センスがない、と言うようですが。
やっぱりセンスは大事。

♪ Sunriser / Ken Ishii