Butterfly only knows.

札幌のデザインマネジメント会社社長のブログです。

川端康成『古都』より

豊富温泉にいってきた

先日、30日に行われるCROSSINGのイベントの打ち合わせのため、豊富温泉に行ってきた。札幌からJRに揺られること約5時間、まさに極北の地で、稚内駅では線路の「端っこ」を見てきた。

初めて訪れた豊富温泉は、事前に伺っていた以上に寂れている印象。少なくとも華やかな雰囲気ではない。廃業したところもあり、実質稼働している宿は数軒のみのようだ。

この温泉は泉質が特徴的で、わかりやすく一言でいうと、石油っぽい。臭いも少し灯油系の臭いだし、色も不透明な茶色。表面にはごく薄く油膜が漂っている。
そして宿自体が相当に古い。一見してあちこち改修の必要性が感じられるし、現代のシステマチックな宿の運営に慣れた身からすると、戸惑うことが少なくない。というか、驚きが。(一例:チェックインしても鍵は渡されない。鍵がないのだ。)

と書くとあまり魅力的な温泉ではないように感じられるが、実はこれがアトピーなどの皮膚疾患にはかなりの効用があり、日本全国からアトピーに悩む方々が長期の湯治に訪れる、その方面では有名な温泉なのであった。伺ったときも数名の方が滞在されていたよう。


で、今後の豊富温泉を担う方々(板長や支配人等々)が温泉活性化を目指すに当たって、まずはウェブサイトをということになり、今回お話をしたわけです。

  • 若い方(ネットのリテラシーがある層)にも来て欲しい
  • 「治る」とか「効く」という表現を使わずに効用をアピールするには?
  • 長期滞在時の娯楽のなさを解消するなにか(コンテンツ?)

といったところがベースとなる投げかけ。

お話を伺って、以下のようなことを考えた。
まずはウェブサイトをPRのツールであるとする位置づけについて。それからデザインでできること・できないこと。


■体験のデザインと共有

PRのためにウェブサイトを使うということは、前提として商品/サービスが提供できる状態になければならないはず。その前に告知するとしても、完成し提供開始できることが予定されていなくてはならない。

今回の件では、さて、提供できるもの(サービス)は完成されているだろうか。
言い方を変えると、ここを訪れるお客様が体験されるであろうこと(いわゆるユーザーエクスペリエンス、っていっつも舌噛む)はきちんとデザインされているだろうか。

お客様に何を持ち帰ってもらうかを、少なくとも提供する立場にある人の間で共有していないうちは、商品・サービスは完成していると言えないのではないだろうか。お土産のなんちゃら饅頭、という話ではもちろんなく。

という風に考え、ウェブサイトをまずは想いを共有する(提供側同士の間、提供側とお客様の間)ための場として構築すること。そこで形成されたあるべき温泉像を実際の経営・運営にフィードバックすることが、回り道のようで実は最短ショートカットではないかと。
今の状態のままで、もし万が一効果的なプロモーションができてお客さんを呼び込めたとしても、たぶん一過性かな、という気がします。2回目はない、という。

この場合まずデザインすべきはウェブでなく、サービス提供側の「想い」、それを共有するためのツールである、というのがデザインマネジメントする立場での見解でした。

※料理が抜群。多すぎて食べきれなかったのが悔やまれる。美味しかったです。


♪ In The Sky / A Hundred Birds