Butterfly only knows.

札幌のデザインマネジメント会社社長のブログです。

川端康成『古都』より

デザイナーかくあるべし。

 デザイナーにとって大切なことは2つしか思い浮かばない。これは自分自身がデザインを生業としてやっていこうと決めた10数年前に決めたことで、それをいまだにかたくなに守り続けている。頑固な対応をしたせいで、結果、仕事自体が立ち消えになるなど、必要以上に苦労した(主に金銭面で)気もする。しかし得るものも非常に多かったし、なにより、今さら方向転換するにはあまりに細く深い道に分け入ってしまっていると思うので、おそらく今後もこの方針でいくことだろう。

  1. デザイナーは寝る間を惜しんで遊べ
  2. 客に媚びたデザインは絶対にするな

 この2つのシンプルな命題を常に自分自身に課してきたが、若干説明が必要かもしれない。

デザイナーは寝る間を惜しんで遊べ

 まず、「寝る間を惜しんで遊べ」について。これは世の中のあらゆるものを見聞きし、体験しておけという意味で、ただ単に夜遊びすればよいというものではない。遊び方やだれと遊ぶかが問われる。

 例えば若い頃、主にデザイナー仲間とはバイクにはまり、バンドにはまり、旧車にはまり、エアガンにはまり、インラインスケートにはまり、スノーボードにはまり…etc。ステレオタイプといえばそれまでだが、やらずに批判的なことを言うよりはともかくやってみて、とりあえずこの先へはもう進めないかも、という「やり切った感」があるところまでやってみたことがとてもよい経験になっていると思われる。

 それから旅行。特に海外への旅行は様々な場面で効いてくる。個人的に思い出深いのは仲間3人でアメリカのザイオン国立公園へ、レンタカーで砂漠を貫くハイウェイをドライブしたことで、これは人間としての経験値がかなりアップしたと思う。(途中、小さな村のマックに立ち寄ったときは、よっぽど東洋人が珍しかったのか子供から老人までわらわら寄ってきて話しかけられた。)

 具体的にデザインの成果物に影響が出ることはそれほどないと思うが、そうではなく、例えばお客さんと話している時に現れてくる知識の深みであったり、あるいは自信であったり、そして何より「自分とは異なる価値観の世界(場面)をどれだけ経験してきたか」ということにつながってくると思う。これはデザイナーとしては大変重要なパラメーターで、自分とは異なる価値観を、否定するでもなく、反発するでもなく、そのままを「理解」してデザインの価値判断に用いられるかどうかが、そのままそのデザイナーの能力に深く関わってくると思われる。

 例えばこういうことだ。よく製品やサービスの企画時に「想定する顧客層」を設定することがある。よくある浅はかな企画では「20代から30代の女性」とか「富裕層」とか「OL」といったように設定されるが、これらがまったく顧客層のスコープになっていないことが、経験値の足りないデザイナーにはわからないのだ。富裕層といっても年収3000万のサラリーマンと年収3億円の実業家と年収は0だが資産が10億ある無職の人では、生活スタイルも価値観も(つまり何もかもが)違うということが想像されなければならない。20代女性といっても、はたちの大学生と29歳のキャリアでは、もう人種が違うのだ。同じデザインコンセプトの製品でカバーできるわけがない。

 真剣に遊ぶことを通じて、様々の経験をし、多種多様な人々に出会うことが、デザイナーとしてのスキルアップに通じると信じている。

客に媚びたデザインは絶対にするな

 例えばクライアントの社長がどうやら青系のデザインが好きらしい、なので青を主体にデザイン案を組み立てる、というのも媚びたデザインかもしれないが、ここでいう「媚びたデザイン」というのはちょっと違う。

 一言でいえば、よくあるデザインをするな、ということでもあるし、あるいは万人が安心するデザインを出すな、ということでもある。具体例を出そう。もし女子大のウェブサイト(パンフでも校舎でも何でもよいが)をデザインすることになったとしよう。全体のキーカラーを何色にしようかと思い立ったとき、女子大=若い女性=ピンク、なのでピンク主体でいこう、という発想が典型的な「媚びたデザイン」※の悪しき例だ。最低である。万人がもつステレオタイプ像に頼った発想は、はっきり言って(デザインという業務上)害悪でしかない。

※サザエさん的デザインともいう。サザエさんに出てくる老人は腰が曲がって杖をついているし、悪人はサングラスに無精ひげだし、インテリは眼鏡だ。そこにはデザインはなく、あるのは記号のみである。

 どこにでもある陳腐なコンセプトしか打ち出せないのなら、デザイナーとしてその案件に関わっていく資格がないのだと思う。デザインを通じて新しい意味づけをしたり、新しい考え方をもたらしたりすることをデザイナーは常に目指すべきだ。

 よく遊び、媚びない。これにつきると思う。


♪ 黒い月のニーナ / Cioccolata