Butterfly only knows.

札幌のデザインマネジメント会社社長のブログです。

川端康成『古都』より

知らないということを知る

 製品やサービスに関してなにかしらのデザイン案件を頼まれたときに、どの程度掘り下げて知識を得ておくべきであろう。可能な限り知っておくというのが前提ではありますが、現実的にはクライアントと同じレベルまで知識・情報を得ることは不可能に思われます。

内容が難しい場合

 扱うもの、あるいはクライアントの事業内容そのものが高度すぎて完全に理解するには時間がかかりすぎるケース。時間があっても理解できるとは限りませんが。たとえば知識や技術そのものを扱う企業(機関)がクライアントがこれにあたります。弊社のこれまでの例では、大学の研究ユニットや研究組織、先進的な医療分野でのベンチャー立ち上げなどがあげられますが、多くの場合求められるのは、高度で専門的な内容を一般のレベルまでかみ砕いて表現することです。

 まず問題になるのが、「一般のレベル」とはどのレベルなのか。そもそも一般の人とはだれのことなのか。この前提が最初から我々デザイナー側と発注者であるクライアントで異なっていることがありますので、ここをきっちり確認して進める必要があります。塩基配列という言葉を理解する/しないで線を引くこともあれば、可処分所得が500万円以上/未満で線を引くこともあります。多くのクライアントは自社の事業分野の知識を「一般の」人にも求めすぎる嫌いがあります。

 そしてやはり、単純に難しすぎる、という問題です。イオンなんとか交換膜やら高硬度GEL素材の分子構造やDNAのタンパク質がどうのこうのとか。それでなくとも、自分には縁のない業種でのビジネス構造など全く想像の範囲外であり、ましてやそれをかみ砕いてわかりやすく表現する(当然かみ砕くには理解する必要があるので)のはかなりの困難を伴う作業です。

先入観のない斬新な視点での提案が求めらる場合

 よく知らないから言えることというのは存在します。知ってしまうことで、ある方向での可能性を最初から排除して思考してしまいがちです。特に業界(あるいは製品)特有の慣習を前提情報として得た場合、それを無視して考えることは難しいことで、その情報を共有した結果、クライアントがこれまでたどってきた袋小路に入り込む思考の道を仲良くトレースしてしまう可能性があります。これではデザイナーにアウトソースする意味がありません。

 これとは逆に、クライアントが斬新な視点を求めるために情報の提供を意図的に絞る場合もあります(実際ありました)。この場合まったく間違った方向の提案をしてしまうというリスクをデザイナーは(クライアントも)抱えることになります。情報の制限により制約をかさないという方法は、複数のデザイナーに広く案を求めるというケースでは有効ではありますが、期日が迫っているなど、クリティカルな状況ではリスクが大きすぎるかと思います。

知らないということを知る必要性

 知識の総量を100としたら、自分の知識は30である、あるいは40である、ということを認識する必要があります。自分がどこまで知っているかということを、自分自身はもとより、情報を提供する側のクライアントにも把握してもらう必要があります。それにより適切なレベルの情報を提供してもらい、またどこまで踏み込んだ表現ができるのかを把握してもらっておくことで、単純なレベルでの齟齬は排除できるように思います。

 知らないということ、知らない部分の情報を把握してもらっておくことで、例えデザイナーが誤解を含んだなんらかの表現をしたとしても、そこにクライアント側の情報提供に問題があったことがその時点で共有できます。そして次のバージョンではより「一般レベル」にかみ砕いた情報提供ができるはずです。

 重要なのは、一次としてクライアント側から情報提供を受けたら、どこまで理解ができているか、という情報をデザイナー側からフィードバックすることで、ここを曖昧にしたまま進むことはお互いに不要なリスクを抱えることになります。簡単に行うとすれば、ともかく質問を投げかけることと、理解できた情報をデザイナーらしく図で表現して見せることです。特にオリエンテーション時にその場で描く図は、意外に以後の制作物の根幹になったりすることがあります。この図で「理解度のコンセンサス」を確認しておくと、進行がかなり楽になることでしょう。

♪ Toward The Patrol Line / Fantastic Explosion