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札幌のデザインマネジメント会社社長のブログです。

川端康成『古都』より

デザインは付加価値か

 公的な機関が主催する製造業向けのデザインに関するセミナーなり勉強会なりで、よく「デザインによって付加価値をつける」という表現が使われる。助成金や補助金の資金使途のなかにも「デザインにより付加価値を付与するために〜」などといわれることもあるし、ちょっと経営に関して勉強している経営者も「デザインの付加価値で商品力を高めて」などと発言することもよく聞く。

 本来「生産」ということ自体を原材料の価値に対して価値を付加する(付加価値をつける)活動だとする意味合いがあるかと思いますが、ここでの文脈では違うように思われます(それだとその製造業の全ての活動を付加価値を付加する活動と表現しなければ矛盾する)。

 この場合の「付加価値」は見栄えによって増加すると思われる売上げ額、程度の意味で、「デザイン」の意味も多くの場合、見栄えをよくしてより売れるようにしよう、という程度の意味ではないでしょうか。

 個人的のこの手の考え方に非常に疑問があり、そういった発言を聞くたび発言者にその真意を(付加価値って何ですか?とか、付加する前の価値はどんなもんですか?とか)脊髄反射的に聞いてしまいます。

 その製品なりサービスが最初からもっている価値に対して、デザインという行程を経ることで向上する価値を「付加価値」と呼んでいるのかと思いますが、それではデザインという行程がないプロダクトはそもそも価値を有しているのでしょうか。

 例えば自動車を例に考えてみると、自動車の価値とは本来、

  • 人や荷物が運べること
  • 歩いてはいけない遠いところへ素早く移動できること

という基本的なことをベースとしており(一般的に市販されている自動車でこれを満たしていない自動車はないと思う)、これに加える形で、

  • より早く(単位:ps、kg/m、CD値等々)
  • より多く(3列8人のりとか)
  • よりラグジュアリィに
  • よりかっこよく

とかいう要素が価値的差別要因の例となります。
この文脈だとデザインによる付加価値という発想は破綻がないように思われますが、ではデザインという行程を経ないで造られた自動車を思い浮かべることができるでしょうか。現在市販されている自動車からデザインという要素を排除して成り立つ自動車はあるでしょうか(どうしょうもないひどいデザインの車はありますが)。

 少なくとも現在のマーケットでは、

  • 人や荷物が運べる
  • 歩いてはいけない遠いところへ素早く移動できる

だけの自動車は求められていない以上、デザインという要素を排除した自動車製造は考えられません。つまり自動車の価値にデザインという要素は織り込み済みであり、不可分であると思います。自動車が本来もっている価値とデザインによって付加した価値は分けられない(同一である)と思うのです。

 そしてこれは自動車に限らず、これだけ成熟した日本のマーケットでは全てにおいて同じだと思っています。ユーザーを必要とする全ての製品・サービス・企業・事業・概念等々、それらの価値にデザインは不可分な要素として含まれていて、それは付加価値ではなく、それ自体の価値そのものだと思います。


 といった観点から、製造業の経営者の方には可能な限り早い段階(企画段階)からデザイナーを参画させて、一緒に「価値」を造っていく必要がありますよ、と説いています。中身を造った後で、外見をぺたっと貼り付けたり、かぱっとかぶせても、間違っても付加価値は生まれない、と思うのですがいかがでしょうか。

♪ Come / Prince