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札幌のデザインマネジメント会社社長のブログです。

川端康成『古都』より

5分で数千万円を生み出すデザイン

 このプレゼンテーションの結果如何で数千万円の創業資金が得られるかどうか決まる。数年にわたり準備と根回しをしてきた企業内ベンチャーにGOサインが出るかどうか決まる。今後数年間、公共系事業の主体企業になれるかどうか決まる。

 これらはこれまで実際に手がけてきた案件ですが、いずれも非常にクリティカルな場面でデザインの重要性が問われ、結果が求められる仕事でした。具体的には先進的で(一般的には)難解なビジネスモデルを決裁者─ベンチャーキャピタルであったり一部上場・巨大企業の取締役会であったり、行政の長であったり─にわかりやすく、かつ短時間で伝えるというミッションで、プレゼンに関する一切のシナリオ、資料、立ち振る舞い、場合によってはしゃべり方、服装までこちらで(デザイナーとして)コミットしています。

 特に新規事業の立ち上げに関しては、その時点においてはビジネスモデルそのものが商品であり価値そのものですので、それを正確に、端的に伝えられるかどうかが生命線となります。特に『0(ゼロ)モデル』と呼ばれる、主にR&D系(以前はITが多かったと思いますが現在はバイオ系が主たる0モデルのようです)で立ち上げ後売り上げがたつまで数年かかるというスタートアップについては、製品もない、サービスインの目処もない、仮説に基づいた細い線のみある、という状況ですから、ビジネスモデルを正確に理解してもらえるかどうかが全てといっても過言ではありません。

 経験上、そういった場面で創業者自身がプレゼンテーション(企画書の作成も同義)の骨子を用意することは、必ずしもベストなかたちではないようです。多くの場合、失敗の確率が高くなるように思われます。

 まずひとつには、創業者はその事業の周辺知識に関してのレベルが高すぎることがあげられます。知識があること自体は当然ですし問題はないのですが、他者のレベルに合わせて情報をかみ砕いていく、あるいは簡潔な表現をする努力が不足していることが見受けられます。特に出資/融資の決裁者というのは得てしてジェネラリストであることが多く、スペシャリストである創業者の言葉が理解されにくい傾向があるため、表現やシナリオに充分な注意が必要と思われます。

 また、知識レベルの問題だけではなく、量の問題もあります。多くの創業者は、有り余る情報を限られた時間にも関わらず全て伝えようとしてしまう傾向があります。時間が有限である以上、本当に伝えたいこと以外は大胆にオミットした方が効果的なのですが(後で聴取者から質問というアクションを引き出せる)、創業者自身が全て大事と思っている情報から「何を削るか」という判断はしにくいことと思われます。

 もうひとつは何をもってしてベネフィットとするのかが、立場によって変わるということが、創業者には理解しにくいことがあげられます。研究者がそのシーズをもって創業するような場合に多いことですが、創業者にとってのベネフィットは自身のもつ何らかの技術力を示すことである場合があります。しかし出資/融資をする立場からすればビジネスとして形がつくれるのか、どれだけの利益が見込めるのかがベネフィットですし、事業上のパートナーであればそのビジネスの継続性がベネフィットとなります。もちろんエンドユーザー(仮に一般消費者として)にしてみれば、その製品/サービスがどれだけ自身の生活を豊かなものにしてくれるかがベネフィットそのものです。
 そういう基本的な齟齬がある上で、技術に関しての専門的な説明を主体にプレゼンテーションしても、得られる結果は自ずと限られたものになります。端的に言えば、相手が知りたいのは「で、どうなるの?」という一点につきます。
 どうやら、基本的に創業者は話を聞いてくれる相手によってプレゼンの落としどころ(示すべきベネフィット)を柔軟に変えるということが苦手な人種のようです。

 そういったことを踏まえて、クリティカルなプレゼンに関しては第三者の力を借りることが有効な方策であると思います。具体的にはプレゼン慣れしていて、情報を扱うことに長けたデザイナーにアウトソースすることをおすすめします*1

 デザイナーにとっても、普段自分が手がけているデザインというものの効果測定はなかなかできない(曖昧でわからない)ものですが、こういった案件は非常にシビアに結果がでる、デザイナー冥利に尽きる仕事になりうると思いますので、機会があったらぜひチャレンジして欲しいと思います。もちろん失敗した時のダメージは半端じゃなく大きいですが。

 ちなみに冒頭であげた3件の例は、もちろん全て成功事例です。


♪ Keep on Movin' / Soul II Soul

*1:弊社の場合は対価は成功報酬で承っていますが、ビジネスモデルが我々から見てもあまり魅力的ではない場合は、残念ながらお断りしています。